夫婦間の契約を取消す場合

世の男性の中には、スナックの女性に指輪を買ってあげるといって、一夜を共に過ごす御仁もあるらしい。もしその男性が必ず約束を守る英国風紳士だったら、後日その女性は指輪を手に入れることになるか、そうでない場合に、果たして女の子から、指輪をくれるように一夜を過ごした相手に請求できるものでしょうか。
 もちろん口頭で請求することは自由にできますが、それでも相手が買ってくれない場合に、指輪をくれるという約束を実行しないからといって、すなわち贈与契約不履行で裁判所に訴えられるか、です。
 もし、女性から訴えるといわれたとして、これに反論する方法が二つあります。
 一つは、民法五五〇条により、口約束(書 面によらない)による贈与はいつでも取り消せる。だから今、取り消す、という方法。
 他は、あれは一夜の関係を持つことを条件として交わされた贈与契約だから、民法九〇条でいう公序良俗に反するもので、契約そのものか無効になるんだといってケムにまく方法。
 いったん有効に成立した契約が、何ら理由なく契約か取り消せるという場合は、ここにあげた書面によらない贈与の場合だけです。したがって調子に乗ってて奮発した贈与契約でも、それが書面にされると取り消せなくなるわけです。
 しかし、この原則に反する場合がもう一つあります。それかこれから述べる夫婦間の契約です。

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夫婦の間でした契約は、夫婦である間(婚姻継続中)はいつでも、夫からでもあるいは妻からでも取り消すことができることになっています。ただし、夫婦以外の第三者の権利を侵害することはできないと、民法七五四条では規定しています。もちろん、これは書面でなされたものであろうと口頭でなされたものであろうと関係なく取り消せます。
 第三者の複利を侵害できないというのは、たとえば夫か妻にもらった不動産に抵当権をつけて金を借りたという場合、妻がこの贈与を取り消すと、金を貸した者は、夫に貸した金の担保物権がなくなることになります。この規定は、このような第三者の権利を保護するために設けられたのです。
 この規定をみると、夫婦の間では約束は守らなくてよいように思われますが、そうではありません。この規定は、たとえばあるとき、夫が妻に対して「今度の誕生日に、お前の誕生石を入れた指輪を買ってやろう」と約束したが、何かの都合で夫か「あの約束を取り消す」といった場合に、妻か夫を相手として、約束を実行して指輪を買ってくれるよう裁判所へ訴え出るというようなことは望ましくない、という趣旨です。
 つまり、夫婦は愛情と信頼を基礎としているものであり、このような問題は夫婦間で解決すべきであり、この契約について法律で強制することを認めると、かえって夫婦を危機におとしいれることになるから夫婦間の契約は自由に取り消せることにしたのだと解釈されています。
確かに夫婦が愛情と信頼にもとづき円満である問は、このような約束の取消しも笑ってすますこともできるし、裁判で争うということも起こらないでしょう。しかし、夫婦間の愛情にヒビが入り、夫婦が別居するというような状況になったときに、夫が妻に、別れるんだから建物を一棟やる(贈与)という契約をしておきなから、実際に離婚した後で、あれば結婚中の約束だから取り消せるというのであれば、妻の権利は、この条文のために、きわめて不安定な立場に追いやられることになります。
 そこで学者の間では、この規定の乱用により経済的弱者(妻)が優者(夫)により痛めつけられる結果になりがちであるので、このような不都合な規定は削除したほうかよいというのが一致した意見です。
 そこで、この規定を解釈する場合には、このような欠陥をどのようにして防ぐか、ということに意が払われています。
 これについて裁判所は、この規定の趣旨は夫婦関係を円満に維持、継続するため設けられたものであるので、夫婦関係が円満でなぐなった場合、すなわち破綻に直面している場合は、この民法七五四条の規定により、夫婦間の契約は取り消せないという判断を示しています。
 「夫婦が不仲になったので、夫は自分名義の権利を一切妻に贈与すると自筆した書面と離婚届用紙を妻に渡して家出した。その後、夫婦の協議離婚届が出され、妻は夫に対して約束を実行し建物の所有権移転の登記手続きをしてくれるよう請求したが、夫は、協議離婚届の出される前に、贈与を取り消した、といってこれに応じなかった」
 この事件について裁判所は、夫婦関係が破綻に瀕しているような場合になされた夫婦間の贈与はこれを取り消すことができない、という判決を下しました。
 すなわち、離婚届を出す前提としてなされた贈与は、取り消すことかできないとしたのです。
 また別の判例では「夫から山林の贈与を受けた妻が、夫に対し所有権移転の登記手続きをすることを求めて訴えたところ、夫は訴訟中に民法七五四条の規定により、この贈与契約を取り消すという意思表示をした。その当時、この夫婦は離婚の裁判中であった。裁判所は、民法七五四条にいう婚姻中とは、単に形式的な結婚が継続していることではなく、形式的にも、実質的にも継続していることを意味すると理解すべきで、結婚が実質的に破綻している場合には、それが形式的に継続していても、民法七五四条により夫婦間の契約を取り消すことは許されない」とし、契約を取り消す意思表示は無効であるから夫に所有権移転登記手続きをするよう命じました。
 このように裁判所の判断は、夫婦間の契約取消権をなるべく制限的に理解していく傾向にあるといえます。
 このような判例を考慮に入れて、さらに考えてみますと、実際上、この条文が適用されるのは、正常な夫婦間で結ばれた契約であって正常な夫婦関係にある間に取り消す場合に限られます。
 そして、この場合には、前に述べたように法律上の争いになることは考えられず、実質上、この規定の存在理由がなくなったといえるわけです。

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