人前で挨拶できれば一人前

 挨は「ひらく」、拶は「せまる」という意味です。だから挨拶は、こちらから心をひらいて相手にせまる、という意味になるのです。
 外国語を習うたのしさのひとつは「アナザーワールド」(もうひとつの世界)を知ることができるからだと言われている。でもね、外国語に限ったことではない。挨拶をする=相手に心をひらくということは、相手も心をひらいてくれるので、自分ひとりではない世界がそこにひらかれる。簡単なことだけれど、じつは素晴らしいことじゃないかと思う。

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 俳優さんやタレントは真夜中でも、出あったときに「おはようございます」と言う。私も言われたことがある。どうして、午後八時なのに「おはよう」なのか、その意味がわからないうちは、そんな挨拶をされてもしっくりしなかった。「なぜですか」と間いたことがある。一発で答えてくれた。「あれは、お早いお着きでございますというのを省略して言っているんですよ」
 ああ、なるほどと納得した。だから後輩の俳優が先輩より先に「おはようございます」と言うんだな、と、この風習を美しいと思った。
 私たちの言葉って微妙だね。短い言葉の中に、人間関係や気持ちや、その他いろいろな内容がこめられているんだな。
 まず、時間による区別があるね。「おはよう」「こんにちは」「今晩は」と三通りある。しかし、もっと時間をこまやかに意識した言い方もある。
 「おひなりやんしたか」
 岩手県の盛岡市周辺では、私くらいの年配の人が使っている。お昼すぎに他家を訪問したときの挨拶です。「お昼はおすみになりましたか」という意味だ。相手の都合や立場をたずねている。
 イタリアでも、お昼時の挨拶は午後三時くらいを境目に、二つにわかれる。朝から「ボンジョルノ」が続き、お昼がおわってシエスタ(昼寝)をすぎると、「ボナセーラ」になる。日がとっぷり暮れて、午後十時をまわるころから「ボナノッテ」です。「ボナノッテ」は同時に「おやすみなさい」にもなる。
 若い人の間では「チャオ」が流行したが、いまはそれほど聞かれなくなった。日本の若い人、ことに、テレビが普及してから生まれた人たちの間では、どんな挨拶が一般的なんだろうか。一時はアメリカ流に「ハーイ」と呼びかけたり、イタリア流に「チャオ」が使われたこともあるけれど、いまは「あ、どうも」が多い。
 「あ、どうも」でもいいんじゃないかと思ったことがある。若い女性が訪ねてきた。私の学校の同級生の娘だった。父親からことづけものを預かり、出勤の途中でホテルに寄ってくれた。彼女は、ロビーに姿をあらわした私を見ると、きれいに歩み寄ってきて、挨拶をした。
 「あ、どうもでした」
 そう言ってから笑った。私も笑った。すがすがしい印象だった。北海道では挨拶、のあとに「でした」をつけた。たとえば「今晩は」は「お晩でした」になる。講演会などで講師紹介をするときがおもしろい。
 「お晩でした。雪の降るところをようこそお運びでした。講師の先生をご紹介します。◯◯さんでした」
 だから、彼女が「あ、どうもでした」と言ってもおかしくはないのです。ちゃんと、北海道流の挨拶になっている。
 そう、言いたいのはこのことなのです。挨拶には、こう言うべしかくあるべしの、きまりきった言葉はないのです。その極意はなにか。
 「人前で、ちゃんとやれれば、それで一人前」これです。むかいあった相手との間に、新しい時間が始まることが大切なのです。

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人前で挨拶できれば一人前/ たった一言が相手の心を閉じさせる/ 挨拶ぬきの不愉快さを与えていないか/ 挨拶は動作と感情/ ちゃんと挨拶すれば気持ちがいい/ 挨拶の基本は目と目をあわせる/ 挨拶美人/ 礼三息/ 挨拶とお辞儀は別々に/ 丁寧無礼/ おじぎに勝る笑顔/ 呼び方は一番無難な「さん」/ 呼び方についてのケジメ/ 敬う気持ちが大切/ 結婚前後の呼び方の注意/ 返事別嬪と返事惚れ/ 心を相手に向ける/ 聞きたいことしか聞かない人/ 叱られたときの返事/ 手紙は本音を伝えることが大切/ 手紙のマナーも知っておく/ 様にも三種類ある/ 電話での配慮を忘れずに/ 電話をかけてはいけない時間/ 電話では不確実な話しは避ける/ 電話をかける前に話す事を整理する/ 気働き/ 気持ちをいきいき働かせる/ 過不足のない動作/ 気働きは他者への奉仕以上のもの/ まわりの人に行為をどう受けとめられるか/ 気働きの中身は思いやり/ 単純な行為を意味のある行為にする/ 相手の気持ちを読む/ タイミングは言葉を生かす/ 自分だけのタイミングは失礼/ 三辞三譲を忘れずに/ ユーモアは社会的なもの/ ユーモアの分からない人/ ユーモアは人生を語るもの/ ベテランでなくてもかさの低い仕事はできる/ 小の文化/ ちょっとした頭の働きで仕事の質が変わる/ かさが低いとケチは違う/ お行儀が悪いとかわいくない/ 行儀とは手本どおりに行うこと/ 他人を不幸にさせない/ 食後の景色が大切/ 座り心地のよい席が上座/ 上座をつくってあげる心/ 夫婦は並んで座るべからず/ マナーは守った方が楽しく無駄がない/ 贈物は相手の立場を考える/ 贈物は相手の気持ちに負担をかけない/ 手づくりの詰め合わせ/ 時間を贈ることもできる/ おかえしは面倒くさいという気持ちを捨てる/ お返しはお金を使わず頭を使う/ お返しを買い置きしておく知恵/ お返し不要の意思表示/ 楽しいおしゃべりは聞き上手から/ 会話の習慣づけをする/ 自信がないから逃げ言葉になる/ 自信をもてば言葉もかわる/ 素直にあやまる/ 叱ると怒るは違う/ 謝罪の連発は一時のがれ/ 謝罪のあとの態度/ 断りべたな人の共通点/ 借金の断りの三段階/ いろいろと使える登山道論/ 目上の人への接し方がわからない/ 人生の先輩にご苦労様/ 目上の人にはセカンドを基準に/ 他に生かされているという思い/ 友人とは自分の鏡/ 友だちつくりの知恵/ いい友だちの効用/ 友だちと長続きする秘訣/ あなたの存在を認めてくれる男性/ 男友だちを作る秘訣/ 友人を部品化することはやめる/

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