裏書の実際

 約束手形のしくみの中で、もっとも重要な項目が「裏書」(譲渡)といえます。その方法や、効果、裏書人の責任など、むずかしい問題が多くあり、すぐ理解できるとは限りません。ここでは、その裏書の仕組みを説明します。

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 例えば、Aさんが商品売買の代金として、B商会より、期間九〇日の約束手形を受け取ったとします。Aさんの受け取った後の処理の仕方としては、次のような方法が考えられます
 1. 九〇日間、その手形をずっと持っていて、満期がきたら呈示して、手形金額の支払を受け取る。
 2. 資金が早く必要なので、満期日がくる前に、取引銀行に持っていき、その手形を割引いてもらう。
 3. 割引くかわりに、その手形を担保にして銀行から融資を受ける。
 4. 自分の買掛代金の支払いにあてたりして、その手形の権利を、他の第三者に譲渡する。
 ところで、これらの方法の中で、2.3.4.などのように、手形の権利を移転、譲渡する場合に行われるのが裏書ということになります。
 ですから、裏書は手形の流通に欠くことのできない重要な行為であるわけです。
 手形や小切手は、第三者に譲渡することもできます。この譲渡する形式を、法律では「裏書」といっています。ふつう裏書は、手形・小切手の裏面に、ある一定の事項を記載して行われます。
 手形を譲渡する場合は、原則として手形の裏書という方法によることになっています。ですから、手形の裏書以外の方法では手形は譲渡できないとされています。
 これに対し小切手は、ふつう持参人払式をとっており、その際の譲渡は、手渡しによってなされのが一般的です。もちろん、裏書の形式をとってもかまいません。
 裏書には次の二種類があります。
(1)正式裏書(記名式裏書)
 裏書の方法ですが、手形の表面、裏面、付箋などに、譲受人(被裏書人)を指定し、裏書人(譲渡人)が署名をするという方法をとります。これを正式裏書(記名式裏書)といっています。統一手形用紙では、手形の裏面に裏書欄が多数あり、ここに裏書を行います。
(2)略式裏書(白地式裏書)
 正式裏書以外にも、白地式裏書、簡略白地式裏書などの方法も認められています。
 白地式裏書とは、裏書欄に被裏書人の氏名を記入せず、裏舎人の署名だけをして譲渡するものです。記名式裏書との違いは、被裏書人の氏名を書くか、書かないかだけです。無記名式裏書席たは略式裏書ともいっています。
 一般に、この方法による裏書が多くされています。ふつう、手形を譲渡する際には、本来なら被裏書人の氏名まで書くのが正式ですが、白地を補充するのは受取人の裁量にまかせて、空白のまま渡すのがよく行われてかます。
 白地式裏書の利点は次のようなものがあげられます。
 1. 手形所持人は、自分および他人の名称で被裏書人欄の白地を補充することができる。
 2. 手形所待人は、自分を被裏書人として記載しないで、白地式又は正式裏書により手形を譲渡することができる。
 3. 手形所持人は、白地を補充することなく、単に手形を交付することにより手形を第三者に譲渡することができる。
 つまり、3.の方法によると、単に手形の引渡しだけで、署名を必要としませんので、手形に氏名がでることがなく、不渡のとき、支払義務(担保責任)を負わなくてすむという大きな利点があるわけです。
 裏書には、その効果の違いにより、いろいろな種類があります。
(1)譲渡裏書
 手形の裏書は、その大部分が、手形の債権を譲渡するためのもので、指図式手形に固有の方法です。これには、正式裏書(記名式裏書)、略式裏書(白地式裏書)があります。
(2)取立委任裏書
 譲渡裏書と違い、手形の権利を譲渡しないで、単に手形金の取立てを委任するために、つまり、手形金取立ての代理権を与えるために行う裏書で、「取立委任のため」の文句を記載します。この裏書により、被裏書人は、手形金を取立てるいっさいの権利を取得します。このもっとも一般的な例は、手形所持人が自分の取引銀行に持参して、その取立てを依頼するものです。
 取立委任の裏書には、取立委任の文句を明示して裏書を行う「公然の取立委任裏書」と、特にそのような文句を明示せず、普通の譲渡裏書と同じ方法で行う「隠れたる取立委任裏書」があります。
 銀行に取立委任する場合には、取立委任の文言を明示せずに、手形を口座に振込むのがほとんどで、「隠れたる取立委任裏書」というわけです。
(3)無担保裏書
 無担保裏書というのは、裏書による担保責任は負わない、という裏書です。裏書欄に「ただし当裏書人は支払いを担保しません」「無担保」「支払無担保」「償還無用」などの文句を記載します。裏書が、担保責任をともなうことは当然のことですが、裏書にこのような文句を付記することにより、裏書人は手形持参人及び以後の被裏書人全部に対する担保責任を免れることができます。ただし、振出人はいかかることがあっても支払いの担保責任を免れることはできません。
 ところで、無担保裏書がある場合、この手形がいかに信用のおけないものかを公表しているようなものです。このような手形は危険ですので、取扱いには十分な注意が必要でしょう。
 また、どうしても裏書人の担保責任を負いたくないならぼ、手形を譲渡してもらうときに白地式裏書にしてもらうごとです。この方法ですと、手形の外形上の信用を落すこともなく、担保責任を負うこともなく、手形を譲渡することができます。
(4)裏書禁止裏書
 手形を裏書するとき、裏書人が、「以後の裏書を禁ずる」などの文句を記載して、新たな裏書を禁止する裏書を裏書禁止表書、または禁転裏書をいいます。
 この裏書は、担保を目的とする保証金代用手形などで使われます。
 たとえ、その後新たな裏書がなされても、裏書人は自分の直接の被裏書人に対してのみ担保責任を負えばよいわけです。
(5)戻裏書
 戻裏書は逆裏書ともいわれ、振出人、引受人、保証人など、前の裏書人(手形債務者)に対して行われる裏書です。
(6)質入裏書 
 裏書に「担保のために」「質入のために」というような質権を設定する文句を書いて譲渡する方法を質入裏書といっています。この文句があるとき、手形所持人は手形上の権利について質権を取得することになります。
 その結果、被裏書人は手形上の権利を行使する権限が与えられ、それによって取立てた手形金をもって自己の債権(被担保債権)のために他の債権者に優先して弁済を受ける権利を取得します。
 一般的には、この裏書はあまり利用されていません。
 一方、このような文句を付記せず、通常の譲渡裏書で、質権・担保を行う場合を「隠れたる質入裏書」といっています。実際に権利の移転をするつもりはなく、担保のために手形を入れるということは盛んに行われています。この場合、外観上からは通常の譲渡なのか、担保のための裏書なのかはわかりません。
(7)期限後裏書
 これは、支払拒絶証書が作成された後、または、支払拒絶証書の作成期間経過後に行われた裏書のことです。期限後というのは、単に満期後をいうのではありません。
 支払拒絶証書を作成すべき期間は、一般の確定日払いの手形の場合、支払日およびこれに続く二取引日とされています。つまり、この三日間を経過した後でなした裏書が期限後裏書になります。裏書が期限後であるかどうかは、裏書の日付によって判断するのではなく、実際に裏書された日を基準とします。
 期限後裏書には、次のような効力があります。
 期限後も自由に裏書による譲渡はできますが、その裏書の効力が制限され、指名債権譲渡の効力のみを有します。
 手形金の請求権はありますが、振出人による人的抗弁、つまり詐取・契約不履行などの原因関係上の理由などで、その支払いを拒絶されることがあります。
 裏書人は手形上の担保責任を負いません。
 裏書の連続があっても、期限後裏書には善意取得の効力が認められません。しかし、形式的には手形上の権利はあるわけですから、これによって権利の行使を行うことはできます。
 手形の譲渡は、ふつう裏書によりますが、指名債権譲渡という方法でも譲渡することができます。
 この方法は、手形の所持人と譲受人との間で、手形を譲渡する旨の契約を結んだ上で、手形を授受し、譲渡人から手形の振出人などの債務者に対して手形を譲渡したことを内容証明郵便で通知するという方法です。
 指名債権というのは、売掛金や貸付金などのような債権のことをいいます。つまり、指名債権譲渡は売掛金などの債権を譲渡する方法と同じわけです。
 この方法は、裏書の禁止された手形を譲渡する場合に用いられますが、一般にはほとんど利用されません。というのは、裏書による譲渡に比べて効力が弱く、譲受人の善意取得や人的抗弁の制限もなく、譲渡人の担保責任もないからです。
 また、この方法で譲渡を受けた手形所持人は、支払いを受けるためには、手形を持参して呈示するか、自己が正当な手形権利者であることを契約書などによって証明する必要があります。そこで、この証明のために、裏書禁止にもかかわらず、裏書しておくわけです。

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