採用と内定取消し

 使用者と労働者は、労働契約を締結することにより、たがいに拘束された法律上の労使関係に入ることになります。この労働契約が締結されたということを、使用者の側からみて「採用」といっているわけです。しかし、実際には労働契約の締結および採用は、通常は口頭でなされ、また中小企業などでは採用手続がルーズであるため、いつから採用されたかが明確でないことが多く、採用内定の取消しとの関係で問題となることが少なくありません。労働契約が締結されているか否かは、形式上採用という形がとられているか否かではなく、具体的な採用過程の手続と実態により、現実に採用といえるか否かが決まるといえます。

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 採用決定後の労働関係ですが、使用者、被用者ともにその契約締結時に合意した契約内容、粂件に拘束されることになります。私たちは不動産売買や賃貸借などの契約内容については十分検討、確認を行うのが普通です。しかし、労働契約、つまり採用においては契約書は作られず、労働者はその契約内容を知らないまま採用となる事例が多いのが一般的です。
 労働基準法(以下労基法という)では、使用者は労働者に対し賃金、労働時間その他の労働条件を明示することを義務づけています(司法一五条)。さらに、労基法施行規則は具体的に明示すべき労働条件をも定めています。したがって、後日、問題が起きてから調べるのではなく、入社に際し、自分の労働契約の内容を知り、明らかにしておくように心がけることがトラブル発生を防禦するためにも大切なのです。
 卒業予定者が企業に入社が約束されると、ただちに採用という形式をとらず、とりあえず採用内定となり、正式卒業後採用ということになるのが一般的です。
 使用者は優秀な人材をできるかぎり確保したいのが普通であり、他の会社へ行かないことを要求します。しかし相手に要求をするなら、当然のことながら使用者も拘束を受けることになり、採用内定は勝手に取消すことはできません。そこで、採用内定期間中にどうしたら採用を取消せるかという問題が起こります。しかし、結局はケースバイケースで具体的事案において検討せざるを得ないでしょう。
 一般論として説明するなら、採用内定期間中に誓約書や身元保証書を出させたり、あるいは実習生として毎日出社させたりしている場合、これは採用内定者ではなく、すでに正式採用された者と考えられます。この場合の採用内定の取消しは、労働契約締結後の解雇とみなされ、労基法や就業規則上の解雇制限条項に則してとり行わなければなりません。使用者の立場としては、内定者には内定者としての取扱いに徹するという心がけが必要となります。
 また、卒業後に正式採用という場合、労働契約の予約とみれる場合が多いでしょう。この場合、労働者の側から使用者に対し労働契約の締結を強制することはできません。従って採用内定が取消された場合、労働者はこれによって受けた損害を損害賠償として請求しうるにとどまることになります。しかしながら、この場合でも採用内定を取消すにはやはり相当な事由を必要とします。何か相当な事由かは、見習、試用期間中の解雇に関する就業規則等の規定や、他に就職の機会を求めうるかという時期的な問題をも含めて、具体的に判断されることになります。とはいっても、使用者は少なくとも採用内定時に知りえた、あるいは知りえたと思われることを理由として採用内定を取消すことはできません。
 一般に多くの企業では正式採用までに一定期間の試用期間を設けています。使用者はその期間中に労働者を観察し、職務能力(知識、技能など)、適性、人物、性格、健康状態などを把握して、自社の従業員として期待しうる適格性を有するかを判断します。
 試用期間中の解雇は、正式採用された後よりも広く認められますが、この場合、不適格とするについては合理的な理由が必要となります。
 すなわち、労働者の予定された職務、地位について適格な能力、経験などを有するか否かに限って決せられうるものです。しかし、正式採用した後では、予定していた技能を有しなくとも解雇するのは、よりむずかしくなります。
 使用者の立場としては、こうしたことをわきまえた上で正式採用しなければなりませんし、他方、労働者としても、合理的な理由がない場合には、試用期間中の解雇だからといって、泣き寝入りすることはないのです。
 なお、試用期間中の解雇については、労基法二一条の適用を受けます。労働者が一四日以上引きつづき使用されていたなら、使用者がこの労働者を解雇するには、三〇日前の予告あるいは予告手当の支払いを必要とします。
 試用期間が満了すると、自動的に正式採用されたことになります。正式採用の通知をしなくてもかまいませんが、できたら正式社員となった旨宣言するか、励ましてあげるのが望ましいものです。
 試用期間は使用者が勝手に延長することはできません。しかし、試用者が休んだり、あるいは、適格性に疑問があるが試用者のためにさらに観察して有利に取り図ってやろうという意図があるなら、その旨を本人に通告して延長しても構いません。

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