企業をめぐる犯罪

 これまでの刑法の考え方では法人には刑事責任を問えせん。犯罪が成立し、これに対し刑罰を課すのは、刑罰が効果をあげうる者に対してなされるのです。
 刑罰は、違法な行為に対しそれを非難しその責任を追及するのですから、倫理的な非難の可能な人、すなわち本来は自然人を対象にするのです。法人には倫理的に自己決定をなしうる主体性がないのです。
 しかし、公害事件や税法違反など行政事件においては、企業が組織的に犯罪的行為をなす場合があります。また、刑罰の中で罰金刑は、利潤を求める企業に対し威嚇的効果が大きいといえます。そこで、法人に対し刑罰を課す規定が設けられてきました。
 したがって、これらの法人処罰規定は特別に定められたものですから、それらに該当するときには法人も処罰されますが、法人を処罰する規定のない、すべての犯罪に対し無条件に法人の処罰を認めることはできないのです。
 なお、現行の法人処罰規定はすべて、現実に違反行為をなした違反者と、その業務主である法人とを処罰する形をとっています。これを両前規定といっていますが、法人は違反者の違反行為とは別個の監督不行届きの責任を負っているのです。

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 商法は取締役などの責任を考え、一般の刑法とは別に特別に重い刑事責任を課しています。その一つが、会社財産を危くする罪とか、違法配当罪とかいわれる商法四八九条三号に規定するものです。これは、いわゆるタコ配当を対象とします。タコ配当の際、会社債権者は株主に対し配当の返還請求ができ(商法二九〇条二項)、代表取締役や、取締役会においてタコ配当決議案を株主総会に出すことに賛成した取締役に対しても、違法配当を会社に弁償すべき責任を負わせています。
 さらに、会社の取締役、監査役、発起人、職務代行者、支配人などが、法律や命令、定款に違反して、利益配当を行った場合には、五年以下の懲役または三〇万円以下の罰金に処せられます。
 なお、タコ配当は次にのべる特別背任罪にも該当することがあります。
 特別背任罪 - 商法四八六条一項は、会社の取締役、発起人、職務代行者、支配人、その他営業に関するある種類もしくは特定の事項の委任を受けた使用人が、自己もしくは第三者を利し、または会社を害することをはかって、その任務に背き、会社に財産上の損害を与えたときは、七年以下の懲役または五〇万円以下の罰金に処すると定めています。これが特別背任罪というものです。
 この犯罪が成立するためには、自己もしくは第三者の利益をはかり、または会社に損害を与えるために、その任務に背き、
 会社に損害を与えることを必要とします。犯罪成立が問題となる例としては、前述の粉飾決算によるタコ配当、不良貸付、私的用途になす手形、小切手の振出、無償贈与、取締役と会社間の取引などです。
 公害事件において、刑法には法人に適用される法律がありません。しかし、従業員や責任者に刑罰を課すだけでは、公害防止のための刑事制裁としての多くの効果を期待できません。そこで、公害による被害の事前防止を図り、そして、公衆の生命、身体に対する実害が発生する以前に、実害の危険が生じた段階でこれを処罰できるようにし、かつ、業務主処罰のための両前規定と、因果関係の立証の容易化のための推定規定を設けた「人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律(公害即決)」が昭和46年制定されました。
 この法律で処罰の対象となるのは、「事業活動に伴う」産業公害に限られます。具体的には、空気の汚染と、水質の汚濁であり、場合によっては、土壌の汚染や悪臭が問題となります。つまり、人の健康を害する物質を排出する行為が処罰されるわけです。
 人の健康を害する物質とは、シアンや有機リンのように物質自体人の健康に害のあるもの、炭火水素のように化学変化によって有害となるもの(光化学スモッグ)、鉄や鉛のように微量でも長期にわたって身体に蓄積された場合に人の健康を害するものなどを合みます。
 排出とは、工場、事業所に設置された正規の排出設備を通じて放出する場合と、設備の故障などの事業活動運営上の欠陥より事業管理者の予定しない方法で放出する場合のいずれも指します。つまり、害物質を自己の管理の及ばない大気や水域などに出す行為をいいます。
 犯罪の成立条件として、こうした行為の結果として、公衆の生命、身体に対する危険を生じさせたことを必要とします。危険とは、実害発生の可能性あるいは蓋然性(その事柄が実際に起こるか否かの確実性の度合)が認められることです。
 これらに該当すると、事故の責任者は公害罪法で処罰され、場合によっては、業務上過失傷害罪にも問われることになり、さらに法人自身が処罰されることになります。
 なお、公害事故の責任者に対する刑事責任の追及は、最近では企業の上層部に及ぶことが多く、大企業の代表取締役社長が業務上過失傷害罪で有罪となった例もあります。

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