慰謝料とは

 私たち夫婦は一カ月前から別居状態に入り、ほとんど離婚の合意も成立しました。ただ、慰謝料の金額については意見が対立し、なかなか合意にたどりつけません。裁判で争われた場合、この慰謝料はどのように決められるのでしょうか。またそれは、どのような算定基準によって決められるのでしょうか。

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 最近「慰謝料」という言葉をよく耳にします。それでは、この慰謝料とはいったいなんでしょうか。民法七一〇条は「不法行為によって他人の身体、自由、名誉及び財産を侵害した者は、財産的損害以外の損害に対しても賠償しなければならない」という内容を定めています。つまり、損害の種類としては「財蛮的損害」と「財産的損害以外の損害(非財産的損害)」とがあって、不法行為をした者はこの両方の損害を賠償する責任がある、ということを民法七一〇条はいっているわけです。
 財産的損害とは、交通事故によって負傷したため治療費がかかる、あるいは車を壊されたため修理代がかかったりした場合における、治療費や修現代にあたる損害のことをいいます。負傷させられて治療費がかかった場合を例にとると、身体という「人格権」を侵害された結果、治療費という「財産的損害」が生じるという解釈が成り立つわけです。
 非財産的損害とは財産的損害以外の損害のことをいい、普通は「精神的損害」といわれています。ただ、厳密にいうと精神的損害以外の無形の損害もこれに含まれます。ここでいう精神的損害とは、精神的・肉体的苦痛をこうむった損害のことです。そして、この精神的損害(精神的・肉体的苦痛)に対する損害賠償が「慰謝料」と呼ばれているものなのです。したがって、損害賠償には財産的損害賠償と慰謝料とがあるわけです。
 財産的損害の賠償は、治療費や修理代の額などによって損害額を具体的な金額であらわすことができます。
 これに対し、精神的損害(精神的・肉体的苦痛)は、本来、損害を具体的に金額であらわせない性質のものです。したがって、その損害賠償、すなわち慰謝料の額は明確な基準がなく、社会的に相当と考えられる金額とせざるをえません。判例も「慰謝料の額は裁判所が諸般の事情を考慮して、自由裁量で決めることができ、その金額を認めた根拠を具体的に示す必要はない」としています。
 慰謝料は一般の損害賠償とはかなり異なる性質をもっています。このため、慰謝料の本質について「慰謝料は、被害者の加害者に対する私的制裁であって、被害者の損害を償う損害賠償とはいえない」という学説もあります。
 しかし、判例や通説は、そもそも損害賠償というものが被害者の復しゆうに代って認められてきたものであることを理由に、慰謝料もやはり損害賠償の一種であるべきだとしています。
 たしかに、慰謝料を請求する被害者の感情には加害者に対する制裁の気持がこめられていますが、慰謝料も、被害者がこうむった精神的損害を償う損害賠償と考えるべきでしょう。
 慰謝料は、精神的・肉体的苦痛の損害賠償です。このため、どんな種類の権利や利益が侵害されたかということは関係なく、精神的・肉体的苦痛を受ければ慰謝料の請求が認められると解されます。また、不法行為の場合のほかに、婚約を破棄するなどの慌務不悛行(契約違反)があった場合にも、慰謝料の請求は認められます。
 次に、侵害される権利(利益)別に慰謝料の請求が認められるケースをあげてみましょう。生命、身体、自由、名誉、信用、貞操などの「人格的な利益(権利)」の侵害が典型的なものです。このほかにも、日照、通風など「生活環境」の侵害の場合や、離婚や内縁関係の破棄など「身分関係」の侵害があった場合にも慰謝料の請求は認められています。
 民法七一〇条は「他人の財産権を侵害した場合にも慰謝料を支払う義務がある」と定めています。しかし、実際には、財産(権)を侵害された場合にその財産的価格に相当する損害賠償(財産的損害賠償)のほかに慰謝料が認められるのはきわめてまれな場合しかありません。その理由は、財産権の侵害の場合には、財産の価格を賠償してもらえば、通常はそれで精神的苦痛も償われると考えられるからです。
 しかし、財産権を侵害された被害者が侵害された物に対し特別な愛着をもっていて、財産的損害賠償を受けただけでは償いきれないほどの精神的苦痛をこうむったようなときはどうでしょう。このような場合には、慰謝料の請求が例外的に認められることがあります。判例においても、愛犬を殺された場合、あるいは先祖伝来の貴重品を壊された場合などでは、財産的価格に相当する損害賠償とは別に、慰謝料を認めたものがあります。
 直接の被害者以外の者が慰謝料を請求できる場合があるでしょうか。あるとすれば、それはどんな場合に、どのような人達が請求できるのでしょうか。
 民法七一一条は「生命侵害の場合には、被害者の両親、配偶者及び子供は、慰謝料の請求ができる」と定めています。しかし、この条文の意味をめぐって、次に説明するような判例や学説が対立しています。どんな場合に、直接の被害者以外の者にも慰謝料が認められるかについては、次の二つの考え方があります。
 一つの考え方は、被害者が死亡した場合(生命侵害の場合)に限って、被害者の親、配偶者及び子供に固有の慰謝料請求権を認めるものです。そして、以前の判例は、慰謝料請求権に関してはこのように狭く解釈していました。
 もう一つの問題は、自分の子供や配偶者か不具にさせられたり、ひどい場合には寝たきりにさせられた場合における両親や配偶者の慰謝料請求権です。このようなケースでは、その子供や配偶者が死亡した場合に劣らない精神的苦痛を受けるのは火を見るよりも明らかで、このようなときには被害者の近親者に慰謝料を認めるべきだとするのが二つめの考え方です。
 そして、最近の判例や学説の多くは、このように考えています。
 民法七一一条は、被害者の両親、配偶者及び子供だけを被害者に代る慰謝料請求権をなしうる者としてあげています。
 それでは、それ以外の被害者の近親者には固有の慰謝料請求権は認められないのでしょうか。たとえば、被害者が死亡(または、これに準じる重傷)した場合における被害者の祖父母、孫、兄弟姉妹、内縁の妻などです。これについても、対立する次の二つの考え方があります。
 一つの考え方は、民法七一一条は慰謝料を請求できる者の範囲を限定したものであるから、被害者の両親、配偶者及び子供だけが固有の慰謝料請求権をもつとするものです。そして、以前の判例はこのように解釈していました。
 もう一つの考え方は、前述以外の被害者の近親者にも固有の慰謝料請求権が認められる場合があるとするものです。民法七一一条がとくに両親、配偶者、子供だけをあげているのは、これらの者は精神的苦痛を受けたことを証明しなくてもその苦痛は誰の目から見ても明らかだからです。つまり、あくまでも原則として両親、配偶者、子供に慰謝料が認められることを定めたものにすぎないというわけです。
 したがって、それ以外の近親者も(両親、配偶者、子と同程度の)被害者との親密な関係を証明すれば慰謝料が認められるとするものです。そして、最近の判例や通説は、このような考え方をしています。

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