債務不履行による損害賠償責任

 一方が「売る」他方が「買う」という意思が合致すれば、売買契約が成立します。このように、二人以上の人間が形式上相対立する立場に立ち、自由な意思に基づき、相互に権利・義務を発生させる合意を契約といいます。
 また契約責任とは、自分自身の自由な意思により権利・義務を発生させた以上、合意を守らなくてはいけないということです。合意を守らないことは契約違反であり、債務不履行が発生し、紛争へと発展することは逃れようがないといえるでしょう。

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 債権とは、特定人(債権者)が特定人(債務者)に対して一定の行為を請求する権利をいいます。例えば、買主は売主に対して売買の対象となった物の引渡しを請求できますし、売主は買主に対して金銭を支払うように請求することができます。この一定の行為を給付といい、給付の内容によって債権もまた区別されます。
 また、特定物の引き渡しを給付の内容とする債権を特定物債権といいます。そして、特定物とは異なり、商品としての規格や銘柄を指示するだけで取引できるもの(テレビなど)を種類物債権、また一定額の金銭の支払いを目的とする債権を金銭債権といいます。
 契約は守らなくてはなりません。しかし、債務者が債務の目的となっている行為を実現してくれない場合には、債権者は国家の裁判機関によって強制的に債権の内容を実現してもらうことができます。このように、国家機関の力でもって履行されない債権を実現させるというシステムをとるのは、一つには債権者の自力救済、例えば、売主が売買の対象となった物の引渡に応じないとき、買主が力ずくでそれを持ってくる、などの行為を禁ずるという事情とも関連しているわけです。債権の強制的実現については、以下にあげる三つの方法があります。
(1)直接強制 - 国家の力でもって債権の内容そのものを実現する方法
(2)代替執行 - 債務者以外の者に債務の内容を実行させ、それに要した費用を債務者から取り立てる方法
(3)間接強制 - 履行が実現されるまで「一日につきいくら払え」という、一種の損害賠償の支払いを命じることで債務の履行を促す方法
 なお、契約の目的物が焼失するといったように、現実的履行を強制することが不可能になった場合には、債権者は債務者に対して損害賠償の請求を求めることができます。
 借金を期日に返さない、あるいは売主が期日がきたのに目的物を引渡さないなどの場合を履行遅滞といいます。履行遅滞になるための要件は、債務の履行が定められた期日に可能であること、債務の履行が実現されないまま期日が経過したこと、履行の遅延が「債務者の責に帰すべき事由」に基づくこと、履行しないことが違法であること、の以上四つです。
 履行の遅延が「債務者の責に帰すべき事由」というのは、債務者に故意・過失が認められる場合をいいます。また、信義則上、故意・過失と同視すべき事由がある場合もこの項目に該当します。
 その範囲は単なる債務者の故意・過失より広い意味があります。信義則上、債務者の故意・過失と同視される場合とは、履行補助者を使用しえないのに債務者が債務を履行するため履行補助者を利用したとき、履行補助者に故意・過失があった場合、あるいは債務者の法定代理人に故意・過失があった場合、の三つをいいます。
 また、履行しないことが違法であるというのは、債務者に留置権(民法二九五条)、あるいは同時履行の抗弁権(民法五三三条)など、履行遅滞を正当化する事由がない場合です。
 履行不能になるための要件としては、債務が、債権成立のときには履行可能であったこと、履行不能が「債務者の責に帰すべき事由」に基づくこと、履行不能が違法であること、の三つがあげられます。
 履行が不能であるか否かについては、社会の取引観念によって判断されます。例えば、売買契約の目的物が滅失した場合のように、債務の履行が物理的に不能になったとき、不動産の売買契約において、不動産の売主が目的不動産を第三者に譲渡して移転登記をしたとき、これらの場合には履行不能と考えられています。
 ちなみに、債権成立のときに履行不能であれば、契約は成立せず、履行不能の問題は生じません。
 不完全履行となるための要件は、旧履行としてなんらかの給付がなされたものの、それが不完全な履行であったこと、不完全履行が「債務者の責に帰すべき事由」に基づくこと、不完全な履行のなされたことが違法であること、の以上三つです。
 例えば、仕出屋の弁当で食中毒を起こしたときのように、給付された目的物に瑕疵のある場合、運送方法が適正でなく品物が破損したときのように、履行方法が不完全な場合、あるいはピアノを部屋に入れようとして調度品をこわしてしまったときのように、給付する際に必要な注意を怠った場合、以上のようなケースでは債務の不完全履行が認められ、債務者は損害賠償の責任を負わなければなりません。
 売主が買主との間でスピーカーの売買契約を締結し、売主が定められた時期に定められた場所でこれを提供したのに、買主の都合で受領を拒否された場合でも売主のスピーカー引渡義務は消滅しません。このように、債務者が債務の内容を実現するためには、債権者の受領という協力が必要になります。
 ただ、債権者の協力がなく売主の義務が消滅しないからといって、買主に引渡すべき品物を売主の責任と負担で保管させることは不公平といえます。そこで、債権者と債務者間の利害関係を調整し公平な処理をする必要から、受領遅滞(債権者遅帯)という制度が規定されています(民法同一三条)。
 債務の本旨にしたがって履行の提供がなされたにもかかわらず、債務者がこれを受領拒絶した場合に受領遅滞の要件が満たされると考えられます。しかし、債権者の受領拒絶に対して、債務者の側から損害賠償を請求することができるかどうかについては多くの争いがあります。
 履行遅滞の場合、債権者は遅滞によって生じた損害、すなわち遅延賠償を請求できます。この場合、債権者は遅延賠償とともに本来の給付の履行をも請求することができます。また履行遅滞後に履行不能になる、あるいは遅滞後の履行が債権者にとって無意味であるという特別の事情のある場合には、債権者は履行に代えて発生したすべての損害の賠償、すなわち填補賠償を請求することができます。ただしこの場合、債権者は本来の給付の履行を請求することができません。
 履行不能の場合は、填補賠償しか請求できません。なお債務者が給付の一部は可能であるという場合、債権者として可能な部分だけでは債権の目的が達せられなければその受領を拒絶し、すべての損害の填補賠償を請求できます。しかし、それ以外の場合、不能の部分に該当する填補賠償のみが請求できます。
 不完全履行の場合は、履行の不完全なことから生ずる損害賠償を請求できます。
 なお賠償の方法は、一定の物を引渡す、あるいは謝罪するといった特約がある場合を除いて、損害を金銭に評価してその額を支払う金銭賠償によります。
 債務不履行の結果損害が生じた場合、債権者はその損害の種類に関係なく損害賠償の請求ができます。また賠償すべき損害の範囲は、債務不履行と相当因果関係に立つ全損害が合まれます。
 相当因果関係を判断する場合、債務者が債務不履行による損害の発生を予見していた、あるいは予見しうる状態にあったか否かが問題になります。この判断は債務不版行発生の時期を標準とします。つまり契約締結の時に損害の発生を予見しえなくとも履行期までに予見しうる状態にあれば、債権者は債務者に対して損害賠償を請求することができます。
 他人の品物を預かっていた人が自分の不注意でそれをなくしてしまった場合、預けた人は預かっていた人に対して、寄託契約品物の返還義務の不履行を理由として、損害賠償の請求ができます(民法四一五条)。また、預っていた人の不注意で他人の品物をなくした場合、預っていた人には過失があり、預けた人は預っていた人に対して、不法行為に基づく損害賠償の請求ができます。
 このように、損害賠償責任には契約上の債務不履行に基づく賠償責任と、不法行為に基づく賠償責任の二つの責任があります。
 契約責任と不法行為責任との違いですが、契約責任は寄託者と受寄者(寄託契約)、賃貸人と賃借人(賃貸借契約)、売主と買主(売買契約)、委任者と受任者(委任契約)など、契約という特別の関係で結ばれている者同士の間で生じる責任をいいます。
 一方不法行為責任は、契約という特別の関係で結ばれていない者同士の間で生じる責任をいいます。もっとも、契約関係にあるか否かという要件の点を別にすれば、効果として賠償責任を生じる点ではまったく同様です。

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