一般的な不法行為の成立要件

 自己責任の原則とは、他人の行為については責任を負わず、自分自身の行為についてのみ責任を負うという原則です。過失責任主義の原則は、自分自身の行為に過失があることを責任の根拠としていますから、自己責任の原則が過失責任主義の前提となっていることは当然といえます。
 自分自身の行為とは、自分自身の意思活動に基づくということです。責任無能力者である白痴の人間をごまかして第三者の物を盗ませる、このような場合は、他人の行為を自分自身の手足または道具として利用したものですから、他人の行為であっても自分自身の意思活動に基づくものであり、自分自身の行為とみなされることになります。

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 このように、過失責任の原理とは、行為者の意思に非難できる点があるときは、その点を理由として損害賠償を負担させる原則をいいます。つまり、相手を傷つける、このような悪い結果を実現しようという意思があれば、当然のことながら過失責任主義の原則の適用があり、損害賠償責任を負うことになるわけです。
 それでは人を傷つけると意識しないまでも、死んでもかまわないまたは傷つけてもかまわないという意思に基づく行為はどのような扱いを受けるのでしょうか。前者の場合を故意といいます。また後者の場合は、殺人または傷害の結果を認容している以上、悪い結果を実現しようという意思があるものと考えられ、「未必の故意」があるとされています。
 なお、群集に向って銃を撃つような場合、行為者は特定の人を殺す意思はありませんが、誰かを死亡させることを目的とした行為には違いありません。このような場合にも殺人の故意があるものとされ、これを「概括的故意」といいます。
 過失とは、悪い結果を実現しようとする意思、または認容する意思はないものの注意を怠ったため、悪い結果を実現させてしまった場合のことをいいます。電車の運転者がよそ見をしたため赤信号を見落し、事故を起したときは、運転者は運転操作という意思行為に関して意思の緊張を欠いていたわけですから、行為者の意思に非難されるべき点があります。したがって、故意の場合と同じく、過失責任主義の原則の適用があり、損害賠償の責任を負います。
 普通、一般の社会において要求される注意をはらえば、自分の行為が悪い結果を発生させるのを防ぐことができます。過失とは、このような悪い結果の発生を避けることができたのに、不注意のためにこれを知ることができずにその行為をしてしまうことをいいます。以上のように、結果の予見可能性及び結果の回避可能性の有無によって過失は判断されます。
 一般的な標準人を基準として判断され、その行為者を基準として判断されるわけではありません。不法行為は、被害者に生じた損害の填補を目的とするものです。加害者が通常人より劣っていたために過失がないとされ、損害が填補されないとしたら不合理としかいいようがありません。
 したがって、加害者に対して通常人としての注意力を要求する必要があるわけです。このように、通常人を基準として客観的に判断される過失を「抽象的過失」といいます。
 民法七〇九条には「他人の権利を侵害したる者」という規定があります。民法が制定された当時、不法行為は、すでに存在する権利を保護するためのものでしかありませんでした。これによって新たな権利を創設するものではなかったわけです。つまり「権利といえない利益を侵害しても不法行為とはならない」という考え方が支配的だったともいえるでしょう。
 しかし、権利以外の利益侵害を不法行為として被害者を救済しなくては、被害者の保護に欠けることは明らかです。したがって、権利以外の利益を保護するために「権利侵害」を「違法性」と読みかえることになったのです。
 違法性の有無については、被侵害利益の種類と加害行為の態様(法規違反、公序良俗違反、権利濫用など)の相関関係において判断されます。
 通常、違法性があると考えられる場合であっても、特別の事情が存在するときには違法性がないとされる場合があります。他人から殺されそうになったとき、自分の生命を守るためやむを得ず相手を殺傷した場合は正当防衛が認められ、不法行為とはなりません(民法七二〇条一項)。また、他人の飼っている犬に突然襲われたとき、やむを得ずその犬を殺してしまった場合にも緊急避難が認められ、不法行為責任を負うことはありません(民法七二〇条二項)。また、法令により犯人を逮捕する行為、刑の執行、労働組合の正当な争議行為などは、正当業務行為とされていますので違法性がありません。
 なお、被害者が自由に処分しうる利益について着手したとしても、被害者の承認がある場合には違法性がありません。
 このように、違法性がないとされる事情を「違法性阻却事由」といい、この事由の挙証責任は、違法性阻却事由があると主張する者が負います。
 欧米においては、違法な侵害があれば損害が現実に発生していなくても、名目的損害賠償が認められています。また、加害者が害意をもって不法行為をした場合は、現実に発生した損害の賠償とは別に、懲罰的損害賠償が認められて,います。これに対して、日本の不法行為は制裁を目的とするものではなく、損害の填補を目的とするものです。したがって、損害が現実に発生したものでなければ賠償を求めることはできません。そして損害が現実に発生しているか否かの挙証責任は被害者が負うことになります。
 損害は、大別すると財産的損害と非財産的損害とに分けることができます。財産的損害は、積極的損害(現実損害)と消極的損害(得べかりし利益の喪失)の両者を合みます。積極的損害の具体的なものとしては、以下に示すとおりです。
 所有物が滅失した場合は、滅失したときの交換価格
 所有物が毀損した場合は、修繕が可能であるときはその修繕料、修繕が不能であるときはその減少した価格。
 身体が負傷した場合は、その治療費
 なお、生命侵害の場合、生存したのであれば得られたであろう収入の喪失額、身体が負傷した場合には、治療期間中(休業)に失った収入の喪失額が消極的損害となります。
 非財産的損害は、精神的損害の賠償としての慰籍料のほか、すべての無形の損害を合むものと解されています。
 ただ精神的損害を考えますと、普通の一個人については不都合はありませんが、会社などの法人については精神上の苦痛は考えられず、非財産的損害について賠償をうけることができません。しかし、会社などの法人が名誉毀損を受けた場合を考えると、財産以外の損害を受けていることは明らかです。したがって、法人の名誉侵害の場合には、無形の損害をこうむっているものとして、非財金的損害の賠償が認められます。
 責任能力とは、自分の行為が法律上違法なものとして非難されるものであることを認識しうる能力をいいます。このような能力がある場合は責任能力があるとみたされ、損害賠償の責任を負わなくてはなりません。
 未成年者のうち、不法な行為をした当時に責任能力がない者は、不法行為責任を負いません (民法七二一条)。この反面、未成年者であっても、責任能力があれば不法行為責任を負わなくてはなりません。ただ、未成年者であるか否かによって不法行為における賠償責任の有無が決まるものではないので注意が必要です。
 なお、責任能力の有無の境界は、小学校を終える一二歳くらいが標準になるといわれています。しかし、一律に年齢だけで決められるものではなく、その少年の行為の種類、生育度などを考慮して判断されます。
 不法行為当時、心神喪失状態にあった者は賠償責任を負いません(民法七一三条)。つまり、不法行為当時に心神喪失であったかどうかということが問題で、禁治産者のように「心神喪失の常況に在る」(民法七条)いいかえれば、そのような状態が継続的であるか否かの判断はこの場合、必要ではありません。
 ただし、正常人が一時的に薬物などによって心神喪失状態におちいった場合であれば、自己の故意または過失によって心神喪失になったものと考えられるので、賠償責任を負わなくてはなりません(民法七一三条但書)。これを「原因において自由な行為」といいます。
 不法行為によって被害者に現実の損害が生じた場合を考えてみましょう。加害者は、加害行為と因果関係がある損害についてのみ損害賠償の責任を負います。加害行為と損害発生との因果関係については、事実として加害行為から損害が生じたという自然的因果関係がなくてはなりません。自然的因果関係があるか否かは、その行為がなければこのような結果は生じなかった、という条件関係の有無によって判断されます。
 自然的因果関係があることを前提とした上で、さらにどこまでの損害について賠償を認めるべきかという法律上の因果関係の問題があります。風が吹けば桶屋がもうかるというたぐいの損害についても、自然的因果関係は認められる場合があります。ただ、これでは賠償すべき損害の範囲が広がりすぎて、不合理となるケースもままあります。そこで法律上の賠償責任を負担させる範囲を限定する必要が生じ、法律上の因果関係の有無が問題になるわけです。
 法律上の因果関係の有無は、民法四一六条の相当因果関係説によって判断されます。そのような加害行為があれば、通常そのような損害が生じたであろうと認められる場合には、加害者がこのような損害を生じると予見しえなくても、その生じる損害との間には因果関係があるものとされます。
 また、通常生じる損害でなくても、加害者がそのような特別の損害の発生を予見することができた場合は、その特別の損害との間にはやはり法律上の因果関係があるものと考えられます。
 物が滅失毀損した場合、物の損害を金銭的にどのように評価するかという問題については、加害行為と損害との因果関係とは異なる面がありますが、同様に相当因果関係を適用して判断されています。

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