実子とは

 私の娘は二〇歳になるOLですが、妻子ある上司と深い関係におち入り、妊娠してしまいました。その上司は奥様との離婚を私どもの前で誓ってくれたのですが、裁判に持込まれる公算が強く、決着がつくまで時間がかかりそうです。この場合、生まれてくる子供はどのような法的扱いを受けるのでしょうか。
 また、離婚が成立しなかった場合は、認知によって父を定める方法もあるとききましたが、これはどのような手続によってなされるのでしょうか。

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 人と人との間に直系一親等の身分関係のある親族を、とくに親子といいます。この親子には自然の血縁がある実親子と、法律上親子と擬制された養親子の二通りがあります。この項では、前者の実親子関係における法的問題について考えていくことにしましょう。
 嫡出子と嫡出でない子の法的地位 実子は、嫡出子と嫡出でない子(非嫡出子あるいは婚外子ともいいます)に分けられます。嫡出子とは、法律上正当な婚姻関係にある父母の間に生まれた子のことをいい、嫡出でない子とは、そうでない父母の間に生まれた子のことをいいます。
 子供を生まれながらにして二つに区別するのは、一夫一婦制を尊重し、婚姻と婚姻外の男女の結合関係をしゅん別するためです。またもう一つの理由として、父母が婚姻しているときは子にとって父が確実であるが、そうでないときは父が確実でないため、このような区別がなされる必要があるわけです。
 現行法上、嫡出子と嫡出でない子との法的地位の差は、法定相続分が後者が前者の二分の一とされている点(民法九〇〇条四号)にもあらわれています。
 実親子関係存否の要件は父と母とで異なります。母子関係は、懐胎、出産の事実によって確定し、問題となることがあまりありません。
 これに反し、父が誰であるかは、現代科学の水準をもってしても正確には証明することができません。そこで人は、通常結婚すると婚姻道徳(同居・貞操義務)にしたがって生活しなければならないわけです。そして子供を生み育てていくという社会的事実に着目し、また懐胎期間に関する医学統計を基礎とし、民法は法律上正当な婚姻関係にある父母の間に生まれた嫡出子に対し、一定の推定規定を設けているわけです。この推定を受けることによって、子は母の夫を父と定められ、法的地位も強く保護されることになります。これに対し、未婚の母の生んだ嫡出でない子の父子関係については、認知という特別の手続によってはじめて定まるものとされています。
 民法七七二条により、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定され(一項)、婚姻成立(届出)の日から二〇〇日を経過して生まれた子、または婚姻の解消もしくは取消の日から三〇〇日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定されます。このような婚姻成立後に懐胎された子についてだけ、妻が夫との性的交渉によって懐胎したことの証明を不要とするもので、これを「嫡出の推定」といいます。
 この推定は、反証がない限りその父子関係が否定されないきわめて強力なものです。「嫡出の推定」を否認したい場合には、嫡出否認の訴という特別の手続きによらなければなりません。
 前述の嫡出推定が重複して働く場合、すなわち、妻が離婚(届出)した日から六ヵ月の待婚期間(民法七三三条)内にほかの男と再婚し、その婚姻の届出が誤って受理され、婚姻成立の日から二〇〇日後、離婚の日から三〇〇日以内に子供が生まれた場合を考えてみましょう。
 このようなケースでは、前夫と後夫が嫡出の推定を受けるため、子の父が判明しない事態が生ずることになります。そこでこの異常事態に対処するため、民法七七三条は裁判所が一切の事情を審査し、子の父を定める「父を定める訴」を規定しています。
 なお、裁判所が父を定める場合でも、子の出生届は母がしなければなりません(戸籍法五四条)。
 妻の生んだ子が民法七七二条により夫の子と推定を受ける場合(推定を受ける嫡出子といいます)、この推定をくつがえし父子関係を否定するためには、嫡出否認の訴(七七五条)によらなければなりません。
 しかし、この否認の要件は、家庭の平和の保護という民法の原則にのっとって、訴の当事者と期間につき厳しく制約されています。したがって、嫡出否認の訴は、夫が子または親権を行う母を相手に提起できるだけで(民法七七四条、七七五条)、その期間は夫が子の出生を知ったときから一年以内に限られています。
 ただ夫が禁治産者である場合、あるいは夫が子の出生前または否認の訴を提起しないうちに死亡した場合などには例外が認められています(人事訴訟法二八条、二九条)。
 父母の婚姻成立後二〇〇日以内に生まれた子は、民法七七二条を形式的に適用すると、母の嫡出でない子となります。この場合、夫が認知してはじめて嫡出子たる身分を取得することになります(準正・民法七八九条)。しかし、挙式後同棲し、子が生まれる直前に婚姻の届出をする例が少なくない実情を考え、判例は、婚姻成立(届出)後に妻の生んだ子は、すべて父の認知をまたず当然に生来の嫡出子たる身分を取得するとしています。ただ、民法七七二条の嫡出の推定を受けないので、一般に「推定されない嫡出子」といわれています(大審院判決・昭和15・1・23)。
 したがって、推定されない嫡出子も、嫡出子として一律に出生届が受理されます。
 なお、推定されない嫡出子の父子関係については、嫡出否認の訴によらず、一般の親子関係不存在確認の訴によって争うことができます。嫡出否認の訴と違って、利害関係のある人は誰でも、期間の制限もなくいつでも訴えることができます。
 妻の生んだ子であっても、夫の長期海外出張中、生死不明中、受刑服役中、事実上離婚している状態(別居中)にあって懐胎・出産した場合、あるいは妻が混血児を生んだ場合などでは、夫の子であり得ない客観的な事情が明らかであるため、夫の子と推定することは前述の推定の基礎を欠き妥当とはいえません。
 この場合にも、その子は推定されない嫡出子として取扱われ、父子関係を争う者は、嫡出否認の訴によらず親子関係不存在確認で争うことができます。
 民法七七九条は、嫡出子でない子に対しては母も認知できる旨規定しています。このため、嫡出でない子についても母の認知は必要であるとする判例が従来は支配的でした。しかし現在の判例は、原則として母の認知をまたず、分娩の事実によって母子関係は明らかであるとの見解を示しています(最高裁判決・昭和37・4・27)。また戸籍の先例も、早くから分娩により母子関係は当然に発生すると取り扱っており、母からの認知の届出は認められておりません。
 それでは、棄児のように分娩の事実が判明しないときはどうでしょう。この場合は母の認知ではなく、母または子からの「親子関係存在確認の訴」を提示し、判決によって確定する方法が妥当と思われます。なお嫡出でない子は、母が生存中はもとより、母の死亡後においても検察官を相手方として母子関係存在確認の訴を起すことができます(最高裁判決・昭和49・3・29)。
 嫡出でない子と父との関係は、もっぱら認知によって認められ、認知されない限り、たとえ真実の父子の血縁関係があっても法律上はこれを父子と認めることはありません(民法七七九条)。
 認知には、父が自発的に行う任意認知と、子が強制する強制認知との二通りがあり(民法七七九条、七八七条)、これらについては以下で述べていきます。
 (1)任意認知
 父が嫡出子でない子をその意思に基づき自発的に認知する場合を「任意認知」といいます(民法七七九条)。
 父が禁治産者・未成年であっても、認知の意味内容を判断する能力さえあればこの者は単独で認知することができ(民法七八〇条、戸籍法三二条)、認知される子の同意を必要とすることもありません。ただし、子を放置し灸親が、老後、子に扶養を求めるということも十分考えられるため、このような利己的な親の目的を封じるため、あるいは母の利害や名誉と認知の真実性を確保するため、民法は子が成年に達しているときはその子の承諾を、また子が胎児のときはその母の承諾を必要とする旨定めています(民法七八二条、七八三条)。
 認知は戸籍法の定める様式にしたがって届出なければなりません(民法七八一条一項、戸籍法六〇条、六一条)。認知がなされると、子は出生のときにさかのぼって父の非嫡出子として認められます(民法七八四条)。認知の届出がなければ、たとえ真実の父が非嫡出である子を自分の子と承認し養育していたとしても、認知の効力を生じません。
 ところで、嫡出でない子について、父が嫡出子または非嫡出子として出生届を出す例がままみられますが、判例はこのような出生届が受理されたときは、認知届としての効力を有するものとしてその子の地位を保護しています(最高裁判決・昭和53・2・24)。しかし、父がその子をいったん他人の嫡出子として届出をさせたうえ、その後自分の養子としたような場合は、のちにどのような経緯があろうと認知の効力を生じないものとしています。
 なお、遺言でも認知することができ、この場合は遺言執行者が届出を行います(民法七八一条二項、戸籍法六四条)。
 認知は真実の親子関係が存在することを前提とし、この事実関係があれば、一度なされた認知は取消(撤回)することができません(民法七八五条)
 それでは、この認知が詐欺・強迫によってなされたときはどうでしょう。この場合、取消し(撤回)ができるかどうかについては争いがありますが、認知の本質が親の意思により客観的な事実の承認にあると解されていることから、たとえ詐欺・強迫によって届出がなされても、真実の親子関係がある限りこの認知は取消〔撤回)すことができないとする説が現在では有力です。
 (2)強制認知
 父が任意認知しないとき、子は父の意思に反しても裁判で認知を請求することができ(民法七八七条本文)、この裁判(「認知の訴」という)でなされる認知を任意認知に対し「強制認知」といいます。
 認知の訴は子、その直系卑属またはこれらの代理人が原告となり、認知を求められる父を被告として行われます(民法七八七条、人事訴訟法二九条ノニ)。胎児は原告となれませんが、子は意思能力さえあれば法定代理人の同意を得ることかく独立して訴を提起することができます(民事訴訟法三二条一項、三条)。
 認知の訴は、被告となる父の生存中であればいつでも差し支えありません。しかし、被告が死亡した場合には、死亡め日から三年以内に検察官を相手方として訴を提起しなければなりません(民法七八七条但書、民事訴訟法二九条ノニ・三二条二項・二条三項)。
 民法七七二条で嫡出の推定を受ける子は、母が夫の子を懐胎することが不可能な客観的事情のない場合、あるいは嫡出否認の訴えがない場合には嫡出性が否定されることがないので、真実の父に対し認知の訴を提起することは許されません(東京高裁判決・昭和49・12・24)。
 しかし、嫡出でない子が戸籍上他人の嫡出子恚記載されている場合では、虚偽の戸籍記載を訂正しない状態でも、その子から実父に対しただちに認知の訴を提起することは差し支えないとされています(最高裁判決・昭和49・10・11)。
 なお、強制認知をめぐる争いにおいて認知請求を認容する判決が正当な当事者間で確定すると、判決は第三者に対しても効力を有し、もはや第三者も反対の事実を主張することができなくなります(最高裁判決・昭和28・6・26)。
 (3)認知請求権の放棄
 嫡出でない子または母が、一定の金銭的対価を受けるのとひきかえに、以後父に対し認知請求をしない旨の請求権放棄の約束をした場合、その約束が有効かどうかについては争いがあります。
 判例は、認知請求権が身分上の権利であること、親子関係が単なる経済的な問題だけにとどまらないこと、及び嫡出でない子の保護に欠けるおそれがあること、などを理由に、このような認知請求権放棄の約束は無効であると解しています(最高裁判決・昭和37・4・10)。したがって、たとえ放棄の約束をしても、その後認知の訴を提起することは何ら支障がないということができます。
 準正とは、嫡出でない子が父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得することをいいます。これは、子のある婚姻外の男女の婚姻奨励と非嫡出子の福祉のため古米から認められてきた制度で、民法は次の二つのケースに限って準正を認めています。
 すでに父子関係が認知によって確定し、さらにその父母が婚姻した場合、これを婚姻準正といい、その子は嫡出子としての身分を取得することができます(民法七八九条一項)。
 父に認知されていない子がその父母の婚姻後に認知された場合、これを認知準正といい、その子は嫡出子としての身分を取得することができます(民法七八九条二項)。
 なお、父母の婚姻が母の死亡・離婚で解消した場合、あるいは父の死亡後検察官を相手方として認知の訴が確定した場合には、いずれも認知準正の効果を生ずるものとされています。
 民法は、婚姻準正の場合には婚姻のときから、また認知準正の場合には認知のときから、それぞれ嫡出子の身分を取得すると規定しています。しかし、認知準正の場合には、法文どおりに嫡出子取得の時期を規定すると相続に関し不合理な結果となる場合があるため、婚姻のときから準正の効果を生ずるとするのが先例の取扱いです。

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