夫婦間の法律関係

 男女が夫婦になりますと、お互いの間には、さまざまな法律関係が生じることになります。
 例えば、同居しなければならない、お互いに協力し、助け合わなければならない、浮気をしてはいけない、同じ氏を称さなければならない、などいろいろです。また、夫婦間の財産関係もむずかしい問題です。ここでは、こうした夫婦間の法律関係について説明したいと思います。

スポンサーリンク

 結婚した男女は夫婦として長く結婚生活を営んでいくわけですが、法律は社会の基本的単位としての夫婦・家庭の健全な育成のため、夫婦が同等の権利を有することを基本として (憲法二四条)、最小限度の規制を設け、また一方で夫婦を保護しています。
 ところで、夫婦になるということは、法律上いろいろな効果を生じさせます。氏の同一などの一般的な効果や、夫婦の財産関係をめぐる効果がそれです。
 夫婦は一定の場所に同居して、お互いに協力し、助け合って生活しなければなりません(民法七五二条)。
 夫婦は人格的に独立し、平等な夫と妻が精神的・肉体的・経済的な共同生活を営むものです。また一方では、夫婦の間に生まれた子の養育の義務を負っており、このため夫婦が同居することは当然のことといえます。
 夫婦は同居義務を負っていますから、一方の配偶者が理拍もなく同居に応じない場合には、他方配偶者は同居を請求することができます。しかし、同居義務に違反しているかどうかの判断は単に形式的にみるのではなく、同居を担否する正当たる事由があるかどうかを実質的にみて判断しなければなりません。
 例えば、犯罪を犯して服役中の者が、他方の配偶者に同居を請求しても同居請求が認められないのは当然です。また暴行をはたらいた者、あるいは別居の原因を自ら惹起した者が相手方に同居を請求してもやはりそれは認められません。
 同居拒否を認める正当事由としては、夫婦間の結婚関係が破綻してしまっている場合が考えられます。判例の大勢は、結婚関係を破綻させた責任がどちらにあるかを問わず、結婚関係が破綻していればそれだけで同居拒否に正当事由があると認めているようです。しかし、このような考え方に対しては、他方で有責別居者による同居請求を拒否している以上矛盾しているのではないのか、という批判がないわけではありません。
 なお同居義務違反は、悪意の遺棄ないしは婚姻を継続し難い垂大な事由として離婚原因となりますが、すでに述べたような同居義務の性質上、強制的に別居中の夫婦を同居させることはできません。
 現実の夫婦は、夫が外で働いて収入を得、妻が家庭にいて家事・育児を担当するといった分業形態が多いわけですが、民法はそのような固定化した分業形態による協力関係を強制しているわけではありません。とくに近年、女性の社会進出がいちじるしく、職業をもったいわゆるキャリヤウーマンが広く社会に定着してきていることを考えれば、ともに職業を持ち、家事・育児も分担するという形態はもちろん、妻が外で働き、夫が家事・育児を担当するという協力関係が増加することもありえます。
 夫婦の協力関係は、それぞれの夫婦によって異なるものであり、各夫婦が自分たちに合った協力形態を考え出していくのが基本です。
 民法は協力の内容のほか、分量においても限度を予定していません。したがって、離婚後に結婚中自分一人が努力し、相手が怠けていたことを理由として、協力し過ぎた分の返還を請求することはできません。夫婦は助け合って生活していくものですが、ここで助け合うというのは、相手の生活を自分の生活として守っていくことを意味しています。
 夫婦はまた、お互いに貞操を守らなければなりません。これは民法が一夫一婦制を採用し、不貞行為が離婚原因となること(民法七七〇条一項一号)、及び夫婦が同居協力扶助義務を負っていることから認められたものです。
 戦前までは、妻の貞操義務違反は姦通罪となり刑罰を受けるほか、離婚原因にもなっていましたが、反面、夫は姦淫罪により刑に処せられたときに初めて離婚原因になるとされていました。このため、従来は夫には貞操義務がないとまで考えられていましたが、現在は、一方の配偶者が不貞(いわゆる浮気)をはたらいた場合には、不貞をはたらいた配偶者とその相手がもう一方の配偶者に対し損害賠償義務を負うことになります。不貞が離婚原因になることはすでに述べたとおりです。
 未成年者は、婚姻適齢に達すれば(男一八歳、女一六歳)父母の同意を得て結婚できます。しかし、一方で、民法は未成年者は親権または後見に服することとしていますから(民法八一八条、八三八条一項)、結婚生活が親権者や後見人の干渉を受け、また、未成年者が子どもを持ったときには、その子どもに対する親権を行使できないという不都合が生じる可能性があります。
 そこで、結婚した夫婦はたとえ未成年であっても成年とみなし(成年擬制といいます)、自分たちのことは自分たちでやっていけるように、夫婦生活の自主・独立を尊宣し、夫婦の実質的平等を確保することにしています(民法七五三条)。
 ただし、結婚によって成年とみなされても公法上は未成年者として取扱われますので、選挙権はありませんし、飲酒・喫煙も禁じられています。そして、ひとたび結婚によって成年に達したとみなされれば、後になって離婚をしても元の未成年者にもどることはありません。
 夫婦として生活している間には、さまざまな契約がなされます。このような夫婦間でした契約(例えば、夜九時以降帰った場合は一回につき一万円支払うという約束)は、結婚中いつでえも取消すことができます(民法七五四条)。夫婦間の契約は、溺愛の結果十分な自由意思を欠くことが多いということから、夫婦間の契約については裁判所の強制力をかりてまで実現をはかるのは妥当でないということがその理由です。
 しかし現在では、この考え方も若干改められ、正常な関係にある夫婦間で結ばれた契約は、正常な関係にある夫婦間で取消す場合にのみ適用があると考えられています。
 結婚により夫婦は同一の氏を称することになりますが、その場合、戸籍には氏の変更をしなかった人が筆頭者として記載されることになります(戸籍法一六条一項・二項)。これは、結婚前に同じ氏を称していた場合でも同じです。例えば「鈴木太郎」が「鈴木花子」と結婚していわゆる婿養子となる場合にも、戸籍には「鈴木花子」が筆頭者として記載されることになります。
 夫婦が離婚すると、結婚によって氏を改めた人は、原則として結婚前のもとの氏に戻ることになります(民法七六七条一項)。しかし、結婚により氏を改めた人(多くは女性)が結婚後の氏を長期間使用し、そのため結婚後の氏が社会に通荊している場合には、離婚により結婚前の氏にもどるのは、不利益を受けることが多いともいえます。そこで昭和51年に民法ぱこの点を改正し(民法七六七条二項、戸籍法一九条三項)、離婚によって結婚前の氏にもどる人が、離婚後も結婚中の氏を称することを離婚の日から三ヵ月以内に届出た場合には(実務上は、協議離婚の届出書にこれに関する記載欄がありますので、これに結婚中の氏を称する旨を記載すればよいことになります)、離婚後も結婚中の氏を称することができるようになりました。
 子の氏は父母が結婚しているか否かで異ります。すなわち、結婚している夫婦の間で生まれた子は夫婦の戸籍に入り、夫婦と同じ氏を称します。また、子が生まれる前に父母が離婚した場合にも、その子は結婚中の夫婦の氏を称します。これに反し、いわゆる未婚の母のように結婚していない父母の間に生まれた子は母の戸籍に入り、母の氏を称します(民法七九〇条一項、二項、戸籍法五二条一項、二項)。
 夫婦が離婚しても、子の氏は当然には変わりません。子は離婚の際の夫婦の氏を称しています。したがって、離婚の際に、結婚によって氏を変更した母が未成年の子の親権者に尨ゐことが決められたとしても、子は当然に母と同じ氏を称し、同じ戸籍に入るわけではありません。
 この場合には、家庭裁判所に子の氏の変更の申立てをしなければなりません。この裁判所の許可を得て、子の氏を母の氏に変更し、そして母の戸籍に入れることができるようになります(民法七九一条一項二項、家事審判決九条甲類七号、戸籍法九八条)。
 結婚により、一方の配偶者と他方の配偶者の親族との間には姻族関係が生じます(民法七二五条三号)。また、配偶者間の子には嫡出性が与えられます(民法七七二条、七八九条)。そして、配偶者が死亡した場合には、もう一方の配偶者は相続権を有し、離婚に際しては、婚姻中夫婦が蓄積した財産の分与を請求することができるのも(民法七六八条)婚姻の効力といえます。
 夫婦が社会において経済生活を営む場合、一方の配偶者と夫婦以外の第三者との契約関係、例えば家族のために冷蔵庫を購入する場合の契約関係はどのような効力を夫婦に対して持つのでしょうか。また、夫婦間の経済関係、例えば生活費をどちらがどのように分担するのかということが問題となります。民法は、夫婦が結婚前にそれぞれの財産について特定の取決めをする場合は、婚姻届出以前にそれを戸籍筆頭者の住所地の法務局に届出、夫婦財産契約の登記をしなければならないと定めています(民法七五五条、七五九条)。このような契約がないときには、夫婦はその資産や収入そのほかいっさいの事情を考慮に入れて、夫婦共同生活に心要な費用についてそれぞれ分担しなければなりません(民法七六〇条)。これを「法定夫婦財産制」といいます。その内容は次のとおりです。
 夫婦の一方が結婚前から持っていた財産や、結婚中に自分の名前で取得した財産は、その者の財産になります。これを「夫婦別産制」といいます(民法七六二条)。このことは、夫婦の一方が負担した負債はその者の負債となることを当然の前提としています。したがって、夫が飲み屋でつくった借金については、妻はこれを支払う義務がありません。夫が会社経営に失敗して借金を背負った場合にも、妻はその借金を返済する義務がないことはいうまでもありません。つまり、偽装離婚によって以上のような借財を逃れる必要はないわけです。
 しかし、結婚中取得した財産が夫婦のどちらに属するのか明らかでない場合は、この財産は夫婦二人のものであると推定されます。夫婦が協力し合って財産を築いてきたのですから、この推定は当然といえるでしょう。
 夫婦の共同生活を維持・発展させていくには、日常生活に必要な費用を支出しなければなりません。夫婦はその資産、収入その他一切の事情を考慮してこれらの婚姻費用を分担します(民法七六〇条)、共稼ぎか否か、各自の収入はいくらかなど、いっさいの事情を考慮してこのような分担は決められます。原則としては夫婦の間の話合いの方法で決めますが、話し合いがつかない場合は、家庭裁判所に申立てて決めてもらいます。
 分担すべき婚姻費用は同居中はもちろん、別居した場合にも支払うよう請求することができます。しかし、別居するようなケースでは、別居に責任ある一方の当事者(例えば、ほかに女性をつくって、これと同棲している夫)からの請求は認められていないようです。なお子どもの養育費は、これとはまったく別に請求することができます。
 配偶者の一方が、子どもを含む夫婦共同生活に必要な日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、それによって生じた債務は、たとえ一方の配偶者が単独でした場合でも、他方の配偶者も連帯してこの支払義務を負うことになります(民法七六一条)。
 日常の家事について取引する相手方、例えば米屋は、妻にだけ米を売っているという意識はなく、夫を合めた家族共同体と取引していると考えているのですから、米代については、妻だけでなく夫にも支払義務があるのは当然です。日常家事の範囲内の取引であれば、配偶者の一方が他方名義で借財したり、財産を処分したりする場合にも、夫婦が連帯して責任を負うことになります。
 しかし、夫婦が連帯責任を負うのは日常家事の範囲内の取引であって、日常家事の範囲を超える取引きの場合は、原則として連帯責任を負いません。

冠婚葬祭
婚約の成立と解消/ 結婚の成立/ 夫婦間の法律関係/ 内縁の夫婦/ 離婚状況とその歴史/ 離婚の方法/ どのような場合に裁判で離婚が認められるか/ 協議離婚の無効と取消/ 離婚と財産関係/ 離婚と子供/ 財産分与、慰謝料は課税されるか/ 親族の範囲/ 実子とは/ 養子とは/ 親権とは/ 後見とは/ 扶養とは/ 死の判定/ 認定死亡と失踪宣言/ 位牌や遺骸などの承継/ 死後の人格権/ 相続の基本/ 相続人/ 相続分/ 遺産の分割/ 遺留分/ 寄与分制度/ 贈与・遺贈/ 遺言の方式と執行/ 戸籍の知識/ 戸籍のしくみ/ 氏と名の知識/ 国籍の取得と帰化/ 国籍の喪失/ 戸籍の訂正/ 住民登録/

        copyrght(c).冠婚葬祭専科.all rights reserved

スポンサーリンク