訪問での戸口から退出まで

 訪問先の戸口に立ったら、コートや手袋は脱いでまとめて持ちます。雨の日なら、コートのぬれた側を中にたたみ込み、傘もしずくをきり、暑い日なら汗をふいて、一呼吸ととのえてから、ブザーやインターホンを押します。
 押してから人の気配がするまでの時間は、ひどく長く感じられますが、せかせかと押し直したり、うんざりという態度をしたりしないことです。先方がマジックミラーであなたを見ているかもしれないし、少々待たされたとしても、訪問する側は、訪問先のペースに合わせるのが当然のマナーだからです。
 人が出てきたら、まっ先に名のります。姓だけでなく、ていねいにフルネームを名のりましょう。使用人や年下の人が応対に出た場合でも、その人はご主人の代理なのですから、主人に対するのと同様に接してください。

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 玄関にはいったらすぐ戸をしめます。戸のほうに向き直ってしずかにしめましょう。はいったまま、うしろに手を回してしめるのは粗雑な感じを与えるものです。
 戸をしめたら、応対の人に「お礼を申し上げたいと思いまして伺いました」「何々の件で伺いました」などとあいさつします。
 手みやげを持参した場合は、ここで渡します。ふろしきに包んであれば、ふろしきからとり出してさし出しますが、応対に出たのが使用人でなく、ご主人や奥さんでしたら直接手渡さずに、棚や式台のわきなどにおくほうが、奥ゆかしい感じです。
 食べ物なら「召し上がっていただきたいと存じまして」、花なら「お好きかどうかわかりませんが」などとことばを添えます。無言でさし出しては、あなたの気持ちが通じないし、受けるほうも気まずいものです。
 上がるときは、中央からどかどかと上がらずに、端のほうに、くつやぞうりを脱ぎます。戸口に背を向けたまま、いったん上がってから、つま先を向こう向きにそろえておきます。人に背中を見せて、うしろ向きにくつを脱ぐ人がありますが、これは無作法な上がり方ですから注意しましょう。
 上がったら、案内の人の二、三歩うしろから従います。珍しげに家の中を見回したり、スリッパをパタパタさせたりしないで、しずかに歩くことです。
 和室に通されたら、奥のほうにはいるのは遠慮して、入り口近くにすわります。室内に座ぶとんがおいてあっても、いきなり座ぶとんの上に踏み込まずに、座ぶとんのわきにすわって待機します。「どうぞおあてください」などとすすめられたら、会釈し、ひざで進んで、座ぶとんの中央にすわります。
 もし、床の間の前におかれた座ぶとんをすすめられたときは、正面から少しわきにずらし、おき直してからすわったほうが、好感を待たれるでしょう。
 主人の気配がしたら、座ぶとんからおりて迎え、畳に手をついてあいさつします。
 洋室に通されたら、すすめられないうちに、ひじ掛けいすにどっかと腰をおろし、背を丸めてご主人を待つなどというのは最低です。
 いすは、ひじ掛けいすが最高で、長いすがこれに次ぎ、小さいいすが最も軽いという格づけになっていますから、部屋に通されて特に指示がなければ、入り口近くの小いすにかけて待ちます。
 ドアがノックされたら、いすから立ち上がって迎え、ご主人であれば、ていねいにあいさつします。
 すなおに「コーヒーと紅茶と、どちらがお好き」と聞かれたら、遠慮なく好みのほうを指定します。「どちらも同じくらい好きですが、きょうはコーヒーをいただきます」などと答えてもよいでしょう。
 もし、はじめてのものを出されて、食べ方や扱い方がわからない場合は、すなおに尋ねます。たとえば、日ごろ茶の湯に縁のないあなたが、薄茶をすすめられたとしたら、「はじめてでわかりませんが」、多少、心得があるなら、「これでいいでしょうか」というように、気どらずに聞いてください。
 率直に聞くことは、若い人らしいよさですし、若い人の特権でもあります。それに、年輩の人は、若い人に聞かれることを喜ぶものです。
 お礼を述べるとか、願いごとがあるとか、用件があってたずねたときは、早いうちに用件をすませます。雑談で約束の時間を超過してしまい、あわてて用件を切り出すような始末にならないよう、気をつけてください。
 話題で注意したいのは、あなたに興味のある事柄と、先方のそれとは違うことが多いということです。自分から無理に話題を出そうとするよりも、若いあなたの場合は、目上のかたが聞かれたことに答えるという形で、対談を進めるとよいでしょう。
 はっきり答えられることなら、さわやかに答え、答えにくいことなら「友だちと、こう話していますけれど」などと、ぼかして答えるなり、場合によっては、「よくわかりません」というのも失礼ではありません。
 昔から、宗教と政治問題は、話題のタブーとなっていますが、人の容姿についても話題にしないほうがよいし、その場にいない人のうわさ話は、悪口になりやすいので避けましょう。また、現在、問題になっている差別についての話題にも、注意しなければなりません。そのほか、ひとりよがりの自慢話も聞き苦しいものです。
 無難な話題としては、郷里の名物の話などは、だれが聞いても楽しいものです。一般に食べ物や旅行の話は、無難といえます。
 手作りの食べ物をすすめられたときなど、ただ「おいしい」で終わらせずに、「とてもおいしいので、作ってみたいと思いますが、私でもできるでしょうか」などと聞けば、作り方を教わることから話がはずみますし、心の交流も得られるでしょう。
 思いがけず話がはずんで時のたつのを忘れることもあるでしょうが、目上のかたには次の予定があると思って、上がってから一時間ほどを目安に、あいさつをして引き揚げましょう。すすめられても、長居はしないことです。夕方の食事どきにかからないように注意することも、心得ておいてください。
 夜なら、おそくなって心配をかけないように気をつけます。若い人は夜おそくても平気ですが、年輩の人には、若い女性を深夜帰すことは、気がかりなものだからです。目上のお宅を訪問した際は特に、相手の立場や気持ちを考えて行動することがたいせつです。
 最後のあいさつは、けじめをつけてきちんと行なうのが礼儀です。
 和室なら座ぶとんからおりて手をつき、洋室ならいすから立ち上がり、ていねいにあいさつします。
 あいさつは、ただ、「お邪魔いたしました」「ありがとうございました」というだけでなく、伺ってうれしかったとか、何のお話が楽しかったとか、あなたの感じたこと、うれしかったことをひと言添えて、謝意をあらわしましょう。
 コートは、玄関を出てから着るのが常識ですが、寒い日など、「ここでどうぞ」とすすめられたら、「失礼します」と好意を受けて、玄関の中で着てもかまわないでしょう。スリッパは、くつをはいてからおき直して、外から来た人がすぐはける形にしておきます。
 雨が上がったときは、傘を忘れやすいものです。忘れ物をして先方の手をわずらわさないように注意してください。
 戸の外へ出たらすぐに振返って会釈し、しずかに戸を閉めます。もし、戸の外まで見送りに出てこられたら、も三度、きちんとおじぎし、さらに門前で見送りをされていたら、曲がりかどで立ち止まり、ふり返って会釈し、先方の心づかいにこたえたいものです。

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